『詩』第三弾!オン・ザ・ロード

詩を載っけます!

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「詩」オン・ザ・ロード

しとしとと降る雨の中僕はバイクである場所に向かっていた。雨に濡れた細い砂は車輪の摩擦に負けじと地面に張り付いていた。その粘り強い砂の群れは一本の太い線となって遥か前の地平線まで伸びていた。その地平線に向かって僕は走り続けている。バイクのエンジン音を空気に轟かせながら。

いつまでも距離が埋まらないというのに。

両開きのスイングドアを押し開けカウンター席に座った。目の前に映るのは、水垢の取れないグラスをシミのついた手ぬぐいでごしごし拭いているマスターと、淡いオレンジの照明に気だるく晒され敬礼するように並べられたウイスキーボトルだけだった。地面と天井と壁の羽目板の所々がささくれていた。照明もいくつかは点滅し消えかけている。やけにうらぶられたバーだった。カウンター席には僕だけしかいない。後ろのブース席から数人のタフぶってる男たちの声が聞こえる

「おい、今回はどんだけ懐が潤ったんだよ」

「血の巡りが悪いやつは神様だね、女と酒をたんまり頂けるぜ」

「神様からの思し召しってわけか、最高だな」

「今日はパーっと弾けるぜ、ベイビー」

空から落ちてくる雨粒が柔らかく弾力のある雨粒から固く鋭い雨粒へすっかり変わってしまった。矢のごとく降り注いでくるその雨は僕のバイクとヘルメットと衣類をことごとく貫いていく。そして雨粒は地面で弾けて砂と混じり合いあちこちで泥の水たまりとなって僕の目前にはばかった。その泥の水たまりの中を舳先で海面を両サイドに切り裂くボートのようにして進んでいった。幸運にも、この辺りには空と雲と遠くにたたずむ山脈とその麓から僕を通り越してずっと後ろの方まで広がる荒涼とした大地だけしかなかった。人に泥水をかける心配はない。そのガランとした大地の上で、僕は遠くに見える地平線に向かって走り続けている。

いつまでも距離が埋まらないというのに。

ドアノブを回し部屋の中に入った。細長く白い机が階段状の床のステップごとに規則正しく並べられていた。段差の一番下のステップには教壇と壁一面の大きな白板が机と向かい合うようにして置かれていた。教壇では眼鏡をかけた白髪頭のおじさんが何かの知識を披露していた。同じような髪型をした同じような身なりをした同じような関心を抱いた同じような会話を好む同じような異性を好み同じような人生を辿るであろう人たちが、真剣に、あるいは気だるそうにおじさんの方を向いて座っていた。

「夏休みになったら旅行に行こうよ」

「いいね、沖縄に行きたいわ、まだ行ったことないのよ」

「北海道も行きたいんだよな」

「でもその前にまずテストをしっかりパスして単位を落とさないようにしないとね」

「単位なんて授業出てれば落とさないよ」

雲が雨を砂に打ち付けるのをやめ空の彼方へ帰り始めた。代わりに陽の光が凍えている砂たちの肩に温かい衣をかけようとひょっこりと顔をのぞかせた。太陽は今まで顔を出さなかったことに申し訳ないといった具合にとても強く大地を照らした。僕は相変わらずその砂上を地平線の終焉へ向かって走り続けている。空で僕を追い抜かそうと翼をはためかせている鳥たちと共に。

いつまでも距離が埋まらないというのに。

インターホンを押した。中でチャイムがこだましたあとドアが開き彼は僕を中へと出迎えてくれた。リビングの右側では50インチのテレビと向かい合うようにしてカウチが置かれていた。その間に簡易なマットレスが敷かれ、赤ちゃん道具が散らばっていた。リビングの左側、カウチの後ろのスペースには角張ったマホガニーのテーブルと居丈高ほどの背もたれを持つ同じデザインの椅子が4脚用意されていた。キッチンからカウンター越しにそのままテーブルへと料理が運べる配置になっていた。彼は僕をその椅子に腰掛けるように促した。階段のステップを一段ずつ踏み降りる音が聞こえた。その音の人物はリビングの中に入ってきた。その男は上下スウェット生地のルーウェアを着込んでいた。右手は上着の中の腹部をかき、左手は毛先が思いもよらない方向へ飛び跳ねている後頭部をさすり、部屋の全ての酸素を吸い尽くすようなあくびをした。

「おい、今お客さんがお見えなんだぞ、なんて格好で降りてきてるんだ。部屋へ戻ってろ。」

「うるせーな、外面だけ整えるなよ」

「なんだその口の聞き方は。どれだけお前のためにこっちは働いてると思っているんだ」

「俺のために?ふざけんなよ、俺のこと何一つもわかってないくせに」

陽の光はどうやら砂に衣をかけ過ぎてしまったみたいだ。砂たちは熱気を帯びてカラカラに乾いてしまった。車輪の摩擦に耐えかねた砂たちが僕を追いかけるようにして後ろに次々と立ちのぼっていった。その砂塵に追いつかれないように僕はひたすら遥か彼方の地平線に向けて空気を突っ切って進み続けている。熱気を冷ます風が僕の体を通り抜けるようにして。

いつまでも距離が埋まらないというのに。

エレベーターの扉が開き、目の前に佇む真っ黒なスーツに身を包んだ2人が、僕に丁重な一例をした後、とってつけたような笑みをこぼし、会議室へと案内してくれた。1人は黒い髪の毛を後頭部の真ん中でひと房にまとめた黒い眉毛と黒い瞳と黒い靴を身につけた女性で、もう1人は黒い髪の毛を眉毛と耳とうなじがはっきりと見えるくらい刈り込んだ黒い眉毛と黒い瞳と黒い靴を身につけた男性だった。2人とも肌とネクタイとシャツ以外は全て黒色だった。会議室に着くと、同じ様に黒いあれこれを身につけた髪の毛が禿げ散らかってるおじさんたちがお互いの意見を一方的に主張していた。その意見を一つ一つ気だるそうに若いメガネの男性がホワイトボードに書き記しては消していた。

「我が社の強みは徹底的な顧客目線だ。名ばかりの市場調査をしたところで彼らのニーズを的確に汲みとれるわけがないだろ。」

「その通りだ。しっかり顧客一人一人の要望に耳を傾け、それらのデータから共通ニーズを抽出し、我が社の技術でしっかりと形作ることが大切だ。」

「いや、しかしそこまで時間をかけるほど余裕はない。ある程度人数を絞って要望を拾っていこう。我が社には長年培ってきた実績と技術がある。まず外れるということはなかろう。」

「待て、そもそも顧客のニーズを汲み取るという前提から疑う必要があるんじゃないか?顧客が自分自身のニーズをしっかりと把握しているとは限らないじゃないか。顧客の予想をはるかに上回る価値を提供するためには単に顧客のニーズを汲み取ろうとするだけでは足りないぞ。」

僕はバイクの速度をゆっくりと落とした。やがてバイクを地表に突き出る岩山の近くに止めエンジンを切った。僕はバイクを降り岩壁に背中を預け空を眺めた。鳥が気持ちよさそうに空の下を旋回していた。僕はポケットに手を突っ込みライターと小さな箱を取り出し、そこからタバコを一本取り出すと口にくわえ火をつけた。タバコの先の煙と口から放り出された煙は頭上の鳥たちに向かって浮上し、やがてそこに到達する前に空気に吸い込まれて消えていった。

この世界はどこにいっても同じだ。

僕はそう思った。

この世界はどこにいっても同じだ。

今度は声に出して言ってみた。

繰り返される景色の一部に僕たちは吸い込まれる。

また声に出して言ってみた。

そう思うだろ?

鳥たちに聞いてみた。

しかし鳥たちは何も答えてくれなかった。

彼らはどうやら旋回することで手一杯らしい。

僕はタバコを地面に落とし、足の裏で火を消した。

落としたタバコの横の地面と岩の間に一輪の真っ白な花を僕は見つけた。白かった。限りなく白かった。

僕はその花を根元からちぎり、空の太陽にかざした。葉脈が浮き出るほど白く透きとおっていた。

僕はその花をポケットに入れてバイクにまたがりエンジンをかけた。

こういうことがあるからお前たちは空を旋回してるのか?

鳥たちに再び聞いてみたがまた何も答えてくれなかった。

夢中になりすぎだよ。

僕は地平線に向けてバイクを走らせた。

決してたどり着くことがないと分かっていても。

その道草にある美しさと出会うために。

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